「よう アリス!お目覚めかい?」


「・・・・・・・・・・・は?」






Play by Wonderland






何も見えない真っ暗闇。
そこに浮き上がる見知った顔。
顔は見えているのに身体がまったく見えないから、すごい変な感じだ。

「おいおいアリス。寝ぼけてるのかい?」

俺が白けた顔だったからだろう。その顔――カガリは大仰に頭を振った。
その頭だけがいろんなところへ行ったり来たり、消えたり現れたり。

「何言ってるかわかんねえよ。そっちこそ何してるんだカガリさん」

他にも色々ツッコミたいけど、胸の内にしまってそれだけ言った。

「これが私の仕事だよアリス」

にっこりといたずらっぽい笑顔――絶対いつものカガリならこんな笑い方はしない――であと数センチで接触する位近くに現れた。
あわてて俺は後ずさって距離を置く。
そんな俺を見てやっぱり楽しそうにしているカガリ。
なんかムカつく。

「あとなんだよ。そのアリスって」
「そんなカッコしている奴はみーんなアリスだよ」

そう言って手だけが現れて俺を指す。

「!?」

言われて見た自分の姿に絶句した。
水色のワンピースドレスに白いフリルエプロン。スカートをはいているのに違和感がなかったのは膝まであるカボチャパンツ?のせいで。
靴までなんだかそれらしい革靴。

・・・・・・・・・・・なんで俺こんなカッコしてんだ??!!

「カ、カガリさん・・・なんだって俺はこんな・・・・」
「アリスだからだろ?」

身も蓋もない回答ありがとう。
っていうかアリスって何だ!!?

もうワケが分からない。
恥ずかしいやら腹が立つやらで頭痛が起きそうだ。

「さあアリス。お前は家に帰りたいかい?」
「はぁ?!」

また唐突な言葉に、もう俺は泣きそうだ。
頼むから落ち着かせてくれないか・・・

「か・・・帰れるなら帰りたいけど・・・」

とりあえずこの格好をどうにかしたい。

そう言うと、カガリはうんうんと頷く。
この時は気がつかなかったけど、なんとも大仰な道化師のようだと後で思った。


「なら、次に会った奴がお前を帰してくれるぞ!頑張って探すんだな」


そう言って、カガリの頭は暗闇の中に溶け込んだ。







お友達に助言を頂いてアリスネタ。
うわああああ。またいじめられてるよ夢主・・・












Play by Wonderland 2


次に瞬きしたら、森の中にいた。

どこを見回してもさっきの闇もなければカガリの姿も見当たらない。
木の間から見える空は青い。そして太陽がさんさんと輝いている。

「・・・・・・なんなんだ」

うんざりと俺は呟いた。
頭を抱えるのはもうどうしようもない。
さっきまでのが夢で今俺は白昼夢を見ていたんだと思いたかったけど・・・・自分の服装がそう言わせてくれなかった。


・・・・・まさか生まれて14年。自分が女装をする日が来るとは思わなかった(泣)


恥ずかしいやら、悔しいやら、居た堪れないやら、ムカつくわで俺の心のパーセンテージは現在荒み比率で振り切れそうだ。

「ふふ・・・夢だ。これは夢なんだ。はやく起きろ俺。そして悪夢の俺を解放してくれ」

膝を抱えて呟いた自分の声も空しい。
閑古鳥が鳴いて、アホウドリが鳴いて、そしてさんさんと照らす太陽。

・・・・・ああ。無駄な時間使ってんな。

そうは思っても動く気にはとてもなれない。
もし人と遭遇して、この恥ずかしい格好を見られたらどうすると?
遭遇しなくてもそんな元気はどこかに消えたぞ。

はあと溜息を吐くと、どこからか聞こえるモーター音が俺の耳に入った。
もう条件反射的に俺は辺りを見回し、そして、絶句した。

白を基にした人型の有機的フォルム。胸は青く、瞳のようなサーチアイが黄色に輝いている。
それは、間違いなくロボットだった。
そして俺はそのロボットを見たことがあった。
ずんぐりむっくり体系じゃなかったけど、間違いなくそのロボはキラの乗っているMSそのものだ。

それは俺の横を翼を模したスラスターでふよふよと過ぎ去っていく。

それだけだったら、俺は間違いなくそれに飛びついたというのに・・・・

(なんでウサミミ?なんで蝶ネクタイ?)

付属品の異様さに、俺はクラリと眩暈がする。
ああ・・・・もうほんっと頭痛くなってきた。

『イソガネバ、イソガネバ』

なんて機械的で野太い素敵な声だろうか。やっぱ可愛い声とかはありえないよな。
ずんぐりむっくりウサミミロボは『イソバネバ』と繰り返し、さして急いでいるように見えない速度で去っていく。
その姿は俺をとってもイライラさせてくれる。
ああもう耐え切れない。

(すっげえ帰りたい・・・)

そう思った時、ようやく俺はさっきカガリが言った言葉を思い出した。


『次に会った奴がお前を帰してくれるぞ!』


まさか、今のロボのことか!?


ガバッと起き上がって、俺はそいつを追いかけた。

「くそ!なんでのろいのにあんな先に行ってんだ」

だけど、追いつけない距離じゃない!

ヤブも垣根も気にせず俺はそれ目掛けて突っ走る。
やっぱりのろいな!もうちょっとだ。

(これで!!)

手を伸ばせば届く!!

そして俺は、言葉の続きを思い出した。



『頑張って探すんだな』




そして感じた浮遊感。

離れていくロボと俺の距離。




「そういうことかあああああああっ!!」




そして俺は穴へとまっ逆さまに落ちていった。



時計ウサギはストライク。









背中が痛い。

頭も痛い。




シャキン・・・・・シャキン・・・・・・




金属音?





「!????!?」




Play by Wonderland 3





うっすらと開けた目に飛び込んできた光景に、俺は飛び起きた。

「何をしておるかキサマァッ!!」

あんまりなことに動転して息の荒い俺に詰るのは、シルクハットを被った銀髪オカッパ男。
俺はといえばそんな怒鳴り声より、その男の持っているものに釘付けられてそれ所じゃないんだけど。

なんで・・・・巨大ナイフ・・・・・・

食事用ナイフを包丁くらいに大きくして研いだみたいな、恐ろしい凶器を両手に一本づつ。
さっきの金属音はこれだったようだ。
ああ、よかった。あのまま寝てたら俺殺されるところだったのか・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんで殺されそうになってんだよ。


「ケーキならケーキらしく、おとなしく切られて私に食べられろ!逃げ出すなど生意気だぞっ」

「はぁ?!」

アリスの次はケーキかよ!!

突きつけられたナイフから逃げる俺。それを追いかけてくる男のナイフから身を守りながら俺は反論した。

「なんで俺がケーキなんだよ!」
「私のケーキがあったところにお前が落ちた!だからお前が私のケーキだ!」

んなムチャな!!

なんつう横暴な理屈か。
ケーキまみれになっていた俺はテーブルから飛び降り、下を潜って別の場所から這い出す。
そこに帽子オカッパが飛び掛ってナイフを振りかぶる。

「おーいイザーク。新しいケーキが焼けたぞ〜」

緊張状態にあるその場に、間の抜けた声が割って入った。
白羽取りをしている俺とナイフに力を込める男は同時に声のほうを見た。
結婚式でしか見れないようなでかいケーキを持って近付いてくるのは、垂れたウサギ耳を生やした、浅黒い肌の金髪男だった。

男は雰囲気をぶち壊したままにやにやとこちらを見て、ケーキをテーブルに置く。

「ほら席着けって。今切ってやるからよ」
「私の分は大きめに切れよ!」
「はいはい」

ウサギ男に促されて、帽子オカッパはナイフを収めて椅子に座った。
ああ〜・・・・助かった・・・・・

「アリスもこっちに来て一緒に食おうぜ」

安堵する俺を促してくるウサギ男。
瞬時に帽子オカッパが反論する。

「ディアッカ、何を言っている。あれは私のケーキだ!」
「何言ってんだよ。あの格好はアリスだろ?」
「私のケーキの上に降ってきたのだから私のケーキだ!!」
「はいはい。とりあえずこれ食ってろ。な?」

どうやって切ったのか分からない、そしてどうして崩れないのか分からない塔みたいに細長いケーキを帽子オカッパに出すと、帽子オカッパはそれに夢中になって食べだした。

「アリスも大変だったな。今急いでいるんだろ?」
「え・・・ええと・・・」

どうやらウサギ男はまともらしい。
俺は戸惑いつつも頷いた。

「ウサギの耳を生やしたロボットを追いかけていたんだが・・・」
「ああ。時計ストライクな。あいつはいっつも時間に追われてるからなあ。女王に怒られるのが怖いんだ」
「知ってるのか!?」
「ああ。この道を真っ直ぐ言ったところに城がある。そこにいると思うぜ」
「そうか。ありがとう!」

すぐにそこに行かないとな!
俺は踵を返し走り出した。

「ああ、待てよ」

そこに、背後から引き止めてくる腕。


「ケーキ、食っていくだろ?」
「・・・・・・・」


俺急いでるって知ってんだろうが。


やっぱりこいつも変な奴には違いなかった。