「これより第39548回、一方的裁判を開廷する!」

「それもう裁判じゃねえ・・・」


俺のまともな意見は、湧き立つ喊声によって掻き消された。






Play by Wonderland 6






法廷に立たされた俺は、今日一番の疲労感に脱力しきっていた。
もうなんでもいい。ただ早く解放されたい。
そこの空気と一体になって他人事のように考えるようにまでなってしまった俺。

そして俺とは正反対に、この状況を楽しみ、キラキラとした眼でいるのは検事側に立った気持ちの悪い『女王』様だ。

「被告人はアリス!罪状は家宅侵入罪及び不敬罪!よって死刑を要求します!」
「被告人、何か言うことは?」

険しい目が印象的な女裁判長が冷静に俺を促す。
淡々としたその声に俺は少し現実に帰って呟いた。

「いや・・・まあ、事実だから・・・・」
「フフン。認めたな!裁判長!さあこいつに死刑の宣告を!!」

『女王』の声に押されて、チビどもが雄叫びを上げる。「死刑だーーー!」「首吊りだーーー!」「ギロチンだーーーー!」と物騒な声が雄叫びの中から聞こえてくるが、いまいち俺は身の危険を感じなかった。

なんとなく、逃げようと思えば逃げられる気がしたから。




「あいかわらず馬鹿な裁判をしているね、『女王』様?」




そんな、なんか達観した俺の耳へ、傍聴席のチビたちの喊声を抜けて、涼やかな声が法廷へと入ってきた。


・・・・・って・・・この声・・・!!


俺以外の全員も、その声の主へ視線が集中する。


「・・・・キ・・!?」


うっかり声が反転してしまうほどに驚いて、俺は口を押さえて目を剥いた。


―――――キラぁ!??


やってきたのは、俺の兄貴だった。


歴史の教科書のイラストでしか見たことのない昔の貴族さまの派手な衣装を、もう少し落ち着かせたくらいの衣装を着て、柔和な笑みを浮かべている。
その様はきっとめちゃくちゃ似合っているんだろうけど・・・・なんか・・・違和感が・・・・

「べっ・・弁護士・・!!」

『女王』の顔が一瞬で青褪め、憎憎しげに歪められる。
そして、弁護士と呼ばれたキラは、空いていた弁護人の席へ移動し、

「まったく、いつも言っているでしょう?裁判をする時は僕に 必ず 声をかけて下さいねって。何度口すっぱく言えば良いんでしょうかね。頭の軽い『女王』様?」

まっすぐに『女王』を見てにっこりと微笑んだ。
その瞬間『女王』の顔は青から紫に変色して、傍聴席のチビたちも「殺される」「おしまいだ」と戦々恐々に身を縮こまらせてしまった。


・・・・・・なんなんだ?


よっぽどキラ――もとい、この弁護士が恐ろしいらしい。
俺からしたら、ちゃんとしてる時のキラなんだけど・・・
と、じっと見ていたら、キラと目が合って、ぱちりとウインクされた。
なんとなく会釈を返す。
それに満足したのかキラはさらに笑みを深めて。

「さあ、裁判長。裁判を再開いたしましょう」

朗々とそう告げた。








言うまでもなく、裁判はあっさりと弁護側の勝利となり、俺は無罪放免となった。







やっとこキラ兄登場!!













「まあ。弁護士さん。この方がアリスなのですね」
「はい。陛下」
「・・・・・ど、どうも」

桃色の髪をした女王さまの前で、俺は固まりつつも会釈した。





Play by Wonderland 7




色とりどりのバラが咲いた美しい庭園。
何世紀前かの王国の庭のようなそこで、俺は恐縮しっぱなしで座らされていた。
その俺の、白い石作りのテーブルを挟んだ目の前に、華やかな女性が座っていたら、さすがに緊張もする。

「アリス。そう固くならないでくださいな」

目の前の桃色の頭をした柔和な『女王』は、そう微笑んでくるのだが、いかんせん一般庶民の俺はそんないかにも上流階級、お金持ち、お嬢様的な人とは付き合ったことがないので無理な話だ。
ちなみに、前回までいた『女王様』は、庭の番人らしい。
庭師のクセに派手なドレスや化粧が好きで、いつもあの格好をして、弟子たちには女王と呼ばせているんだそうだ。
まったく、紛らわしい話だよ。

「時計ストライク。アリスにお茶を」
『カシコマリマシタ』

そしてもう1つの緊張の理由。
俺が追いかけていたずんぐりロボットが目の前にいることだった。

このおかしな世界から帰る為の鍵が目の前にある。

それなのに・・・・

『ドウゾ ありす』
「あ、どうも」

なんで俺は暢気にお茶を頂いているんだ・・・・(ガクリ)

「うふふ。アリスとお茶ができるなんて、夢のようですわ」
「こんな日が来るなんて、長い人生も捨てたものじゃないね」

なんか年寄り臭いことを呟く女王様と弁護士に、突っ込みいれてみたいという欲求を抑えてお茶をすする。
あ、うまい。

「アリス、ずっとここにいてくださいませ。私アリスのことが好きになりましたわ」
「僕もアリスと沢山お話をしたいな」

・・・・・・今、うっかり「はい」って言いそうになってしまった。

「アリス、構いませんわよね?」
「アリス。お話しよう?」


「かんべんしてくれええええええええええええええっっ!!」


言い寄る二人に挟まれて、俺は情けない叫び声を上げてしまった。






この二人に挟まれたら相当大変だよね。