Play by Wonderland 8







「まあ。アリスはお家に帰られたいのですか?」
「そうなんです」
「そんな・・・せっかく知り合えたのに」

話の腰を折って脱線させる二人へ、俺は何とか事情説明し終えることができた。
ぜんぜん聞く気ないんだもんな。隙があれば俺のことばっか聞いてくるくせに、俺の話には耳を貸さないんだから。まあ、なんとか伝わったわけだけど。
二人はとても残念そうに漏らすが、納得してくれているような気がする。
二人の悲しい顔を見ていて胸が痛まないわけではないが(傍目からはいい人たちだからな)、やっぱりこの世界から脱出したいのが俺の本音なんだ。

「それで、時計ストライクが貴方を帰す手段なのですのね?」
「はい」

あの妙なカガリが言う言葉を信じれば、「次に会った奴」が元の世界へ帰してくれるのだ。
そして出会ったのが時計ストライクだった。

・・・・どうやって帰すのかは、また考えたくないんだけどな。未知数すぎて。

何も知らず甲斐甲斐しく立ち回るストライクを横目に遠くへ意識を飛ばしていると、キラと女王様は頷き合った。

「仕方ありませんわね。弁護士さん」
「うん。わかったよ。陛下」

頷いたキラはそのまま時計ストライクに近づいて、上着の中からマシンガンを取り出して構え・・・


「って!!ちょっとまて!待て待てマテ!!!!」


慌ててキラと時計ストライクの間に滑り込むと、キラはきょとんと目を瞬く。
なんだその「不思議なものを見た」みたいな目は!

「どうしたの?アリス」
「どこまで突っ込めばいいかわかんねーよ!!っていうかっ、今、時計ストライク壊そうとしただろうお前!」

そんなでかい銃がどうやったら服の下に入るのかとか色々突っ込みたいところは多々あれど、一番回避しなければならない項目は捨て置けない。
怒鳴り声で言った俺の指摘に、やはりキラは意外そうに目を丸くした。

「どうして壊しちゃいけないの?」

ああああああああああ!やっぱりな!!
そういう返事が来るってなんとなく分かってた!

「さっき説明しただろう!俺が元の世界に帰るためにはこいつが必要なんだって!」
「うん。知ってるよ」
「分かってるならなおさらやるなよ!」

けろりと言うキラにさらに突っ込む。
そして今度は女王様が口を開いた。

「あら。時計ストライクさえいなくなってしまえばアリスはここに一生いてくれるのでしょう?
 私たちにはとても必要なことですわ」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いっ・・・・・いやだ・・・・ここに長い時間いたくないっ

女王様の真っ白な笑顔の下にある真っ黒な感情が目で見えて、俺は心底身震いがした。
今気づいた。善人顔してる悪人の方がタチが悪い。
そしてそんな黒い女王様に、キラが同意する。

「そうだよね陛下。アリスにはずーーーーーーーっとここにいてもらわなきゃ」
「ねぇ。ずーーーーーーーーーーーっとわたくし達と暮らしてほしいですわ」

「ほしい」が命令形に聞こえるなんて初めてだ。
にこにこと笑いあう二人が怖い。
何も言えなくなる俺の足に、何かが当たる。
見ると、時計ストライクがすがり付いていた。

『シニタクナイ。コワイ』

うわーーーー!!俺こういうのに弱いんだよ!
見上げて助けを求めてくるロボットがものすごく可愛くて打ちのめされる。
昔から機械が感情を表すような仕草をするのに弱いんだ。すごい保護したくなるというかなんつうか・・・
よしっ踏ん張れ俺!こいつの命と、俺の自由のために。

「おい!あんたたち!」

意を決して俺は二人を睨みつけた。
二人は何が嬉しいのかしまりのない笑顔を向けてくる。
しっかりしろ俺。こいつらのペースに飲まれたら負けだ。

「何ですか?アリス」

まるで『愛玩動物が向かえてくれた時の主人の喜び』みたいな表情をして返事をする女王様。
だが、俺は愛玩動物でもなければ、この二人に愛の言葉を言う気もない。

「こいつを壊すんだったら、俺は絶対お前たちとは暮らさないからな!」
「え!?」

予想通り、俺の言葉に二人は相当ショックを受けたようだった。
しかしなんというか・・・・この手の輩ってなんでこう言うだけでこんなに驚くんだ。
気分はガタガタと落ちていくが、表情は硬くして相手の出方にそなえる。
二人の表情は無表情へ変わり、そして、キラは黒い笑みを、女王様は下々を見下す目線を向けてきた。

・・・・こっ、怖えぇっ

くじけそうになるが、後ろにいる保護対象を意識して俺は腹に力を込める。負けたら地獄だ。

そして、悪の女王が口を開いた。

「どうしてそのようなひどいことを言うのですか?」
「帰りたいって言ってる人間を帰らせないことのほうがよっぽどひどいだろうが!とにかく、こいつを壊すんなら俺はここにもう来ない!」

淡々と言う言葉がこんなに怖いと思わなかった。
それでも負けじと言い張る俺に、さらに二人のまなじりが深くなる。

「どうしてそういうことを言うのかな?」

キラが一歩前にでる。

「アリス。私たちがどのような立場のものか、わかっていらして?」

女王様が片手を挙げ、合図するように振った。

「!!」

その直後、庭園のいたるところから兵隊が現れ、俺たちを囲いこんだ。
さっきのチビ兵じゃなく、本当の兵士だ。

くそ!権力に物言わせる気かっ!

「アリスにふさわしいお部屋を用意いたしますわ」
「大きな鳥かごがいいね。どこにも飛んでいかないように」

二人の黒い笑みが寒気を呼び起こす。
今ここで逃げなければ、人生が終わる!!

「逃げるぞ!時計ストライク」
『了解』

とにかく体当たりでもして突破し、逃げようと考えていたのだが、時計ストライクは答えるなりジェットを噴かせ、俺を担いで空へと舞い上がった。
ロボットすげええええ!!

突然のことに一瞬気がそれた兵隊たちの行動が遅れ、俺たちはまんまと脱出する。

「お待ちなさい!」

一瞬で立ち直った女王とキラの指示の下、すぐさま上空へ槍や弓が飛んできた。

「誰が待つか!」

しかし空高く舞い上がった俺たちにその攻撃は届かない。
業を煮やしたキラが兵士から弓を奪い取り、俺たちへ放つ。
その矢は俺たちの横を掠め、さらに上空へと上っていった。
げっマジかよ!

慌てて時計ストライクへ急ぐよう指示を出す。その間にも第2射、第3射が放たれる。

こっこのままじゃやられる!

そして・・・・


「なんだか楽しいことをしているな。アリス」



「え゛っ!」


唐突に俺のいる上空に見知った姿が現れた。


「カガリさん?!」
「チシャ猫、何しにきた!」

キラがカガリさんに向かって矢を放つ。その矢はまっすぐカガリさんへ向かうが、カガリさんはその矢をいとも簡単に手でつかんで見せた。
何でだ!!

「私は傍観者で、導きの妖精だ。弁護士。アリスを導きに来たに決まってるじゃないか」

相変わらず意味深な笑顔で言うカガリさん。
二人は敵意を露わにカガリさんを睨み上げているのに、まったく動じていない。
すごいな・・・あの二人と立ち合えるなんて・・・

「アリスはここで私たちと暮らすのです。そのために、時計ストライクを破壊します」

女王様の指示に、今度は兵隊たちが大砲を向ける。
俺まで殺す気かよ!!本末転倒だろ!

びびる俺に対して、カガリさんはなんともあっけらかんとしていた。

「まあ、破壊したければすればいいんじゃないか」
「ちょっ、あんた何言って・・・」

あまりの言葉に俺は絶句する。そんな今までのことを台無しするようなこと言うなよ!
カガリさんはさらに言葉を足した。

「ソレを壊したって、アリスは帰れるし」


「「「えっ!?」」」


俺と下の二人が声を揃えて驚く。
そしてカガリさんはもう一度。

「アリスを帰す役目のものは、そいつじゃない」

同じことを言った。

「はぁ!?」


ストライクじゃない?マジで?


じゃあ俺を元の世界に帰すのは一体誰だってんだーーーーーーーーーーーーーーっ!!?????






長ーーーーーー・・・













「本当にここなのか?」

訝しく言う俺に、カガリさんは肩をすくめた。

「私は紛らわしく言うことは好きだが嘘は嫌いなんだ」

・・・・・・ほんとかよ。






Play by Wonderland 9





とある森の中のティーパーティー会場。


なんか。もうこう言えばすぐに分かるかもしれない。


つまり俺は、一番最初に死ぬ目に合わされたあの帽子オカッパとケーキウサギのいるところに戻ってきていた。

「お、アリス。また俺のケーキが食べたくなったのか?」
「いや、もう見てるだけで腹がいっぱいだから・・・」

またなんだかとんでもないモリモリケーキを持って、楽しそうに近寄ってきたケーキウサギの誘いを丁重に断る。
だって、目の前でとんでもケーキが何事もなく収められていくのを見せられているんだ。
しかも、ひょっとしてこいつ・・・・俺が去った後もこのまま食べ続けていたんじゃないだろーか。とか思ったら。もうそれだけで胃が拒否反応を起こしてくる。
ケーキウサギは残念そうに耳を垂らしたが、大の男がやっても可愛くもなんともない。

「おーいイザーク。お客さんだ」
「ふぁふらふぁれへるふぉりはほるほら!」
「行儀悪いぞ?」

ケーキウサギの呼びかけに、帽子オカッパが頬袋を膨らませたげっ歯類みたいな口のまま講義した。
が、聞き取れないし口からかけらがこぼれてくし。
まっとうな突込みをしたウサギはケーキをおいて、ちょっと待ってろよ。と俺に言った。
そして帽子オカッパの手からナイフとフォークが落ちた。
落としたと言った方が正しいか。そしてなんだかどっかのアニメの格闘家のような呼吸をしたかと思うと。


「おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおお!!!!」


ずぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!!!


掃除機に吸い込まれるように、帽子オカッパの口へテーブルに詰まれたケーキが吸い込まれていった。

・・・・・胃袋ブラックホールか。っていうか・・・人間?

大食らいとかそんなんじゃ鼻で笑われる光景に、もう笑うしかない。
口元が引く付くのはしょうがないと思う。

「やっと帰ってきたか。ケーキよ」
「イザーク。だからアリスだって言ってるだろ?」

何ごともなく口元を拭いて不適に笑う帽子オカッパが俺を見た。
俺まだケーキ視されてるのかよ。
俺の心を代弁するように指摘するウサギだが、オカッパはまるで自分の答えが真実だといわんばかりにふんぞりかえった。

「私の口に入るものは皆、ケーキに決まっているだろう」


・・・・・・・・ええっと・・・なんか嫌な悪寒がしたんだけど。気のせいだよな。

オカッパが俺を手で(っていうか指で)招く。俺はカガリさんを一度見た後、意を決して近づいた。
ちくしょう。なんでカガリさんまったく関係ないって感じで欠伸してんだよ。泣きたくなるだろ。

「覚悟はいいか?ケーキよ」
「え?」

近付いた俺へオカッパが手を伸ばす。その手がどこかを掴んだと思った瞬間、俺の視界はくるりと回転してオカッパの膝に乗せられていた。
そしてオカッパの手が、俺のあごをすくうように上向ける。

って、いや!ちょっとまて!
これって健全サイトにあるまじき体勢じゃないか!!?

「おとなしく食われるんだな」
「っっはぃ??!」

オカッパの顔がかぶさってくる。
逃げたいのに自体が飲み込めなくて、体が動かない。


「お待ちなさい!!」


声が森に響き渡り、俺は驚きざま、オカッパは面倒くさそうに振り向いた。

「アリスを手篭めにかけようなど、この私が許しません」
「僕たちのアリスに、何をしようとしてたのかな?帽子屋」

森まで追いかけてきた女王様とキラに、俺はこの先の災難を予感した。








うっすら終わる気配と永久に終わらない気配がする・・・(笑)