聖夜の悪戯





「ねえアスラン!明日はクリスマスだよっ」
「どうしたんだキラ。突然」

本当に唐突に言われて、アスランは瞬きした。

今日は12月24日クリスマスイブ。

母親たちは現在クリスマス用の料理を製作中で、子供たちは邪魔をしないようにアスラン宅の部屋で遊んでいた。
リビングはきっちりとクリスマス用に装飾されているが、子供部屋までは飾られていないし、今も持っているのはゲームのコントローラ。
クリスマスとは関係ない。

「クリスマスといえばなんだと思う?」

それでもキラはキラキラと目を輝かせてアスランに問う。
目を輝かせた時のキラは基本時に人の言うことを聞かない。
それを思い出したアスランはふうと溜息をついて話しにのることにした。

「・・・・・そうだな・・・・・・キリストの誕生日とか?」
「ちっっがーーーーうよ!!サンタさんだよっサンタクロース!」
「・・・サンタ?」
「そうだよ。知らないの?クリスマスの夜に良い子にだけプレゼントをくれるサンタさん!」

きっと今のキラの脳内ではサンタクロースが柔らかい微笑を浮かべているんだろう。
うっとりと顔をほころばせている。

「いや、知ってるけど・・・・そのサンタクロースがどうかしたのか?」

が、現実主義のアスランにはキラとは正反対で冷めたものだ。
それにも怯まず、むしろまったく気にしていないキラはアスランに向かって

「アスラン。サンタさん見たくない?」

などと言ってきた。


「はぁ???」


ポカンと口が開く。
サンタを見る?
ついていけないアスランをよそにキラはさらに説明する。

「僕ね、毎年毎年サンタさんに会いたくて遅くまで起きてるんだけど、いっつも会う前に寝ちゃうんだ。
 だから今年こそちゃんと会えるまで起きていたくて。
 アスラン。協力してくれるよね?」
「あのな。キラ。そもそもサンタっていうのは「きら。おれもてつだう」
「ありがとう!!じゃあさっそく夜更かしの準備しなくちゃだね!」

弟の協力を得てうきうき気分になったキラは、アスランの言葉も聞かずどこかへ行ってしまった。
残された二人は――正確にはアスランだけが呆然とそれを見送っていた。
兄を焚き付けた弟は表情を出さずにゲームをしまっている。

・・・お前もたきつけるなよ」

事態を把握したアスランがぼやく。
きっと今日は間違いなく夜更かしに付き合わされるんだろう。
有限実行のキラはそこのところ頑固だ。
絶対にサンタに会える訳がないと分かっている分、疲れがどっと出そうだ。
だからつい愚痴をに言ったのだが、

「きらのゆめをこわすな。デコ」

見下すようにそう言われてしまった。

(こいつ、全部わかって言ったのか・・・・・)

兄はあんなに夢見がちだというのに。
いや。自体が冷めているのかもしれない。
まだ舌足らずに喋ることしか出来ない年齢だというのに、兄の夢を壊さないように気遣っているその様は、とても弟のすることとは思えない。

「・・・・・わかったよ。つきあうよ」

一生この兄弟には勝てないんだろうなと感じつつ、アスランは苦笑混じりに頷いた。












「で?これからどうするんだ?」

準備万端だと言って夜に備えてお昼寝し始めたキラを置いて、二人は外にいた。
の後を着いて行く形のアスランが、これからのことを相談しようと声をかけると、は「はっ」とあからさまに馬鹿にしたような溜息をついて、自宅に入っていく。
その仕草にムカッとくる。が、年上の威厳を保つためにアスランはぐっと我慢した。
おちつけおちつけ。いつものことじゃないか。この弟の反応は。
・・・・・・・・・・・・・・・・・いつもというところが悲しいが。

「ん?、どうした」

家に入ったを追いかけて入ると、自分の父親のハルマに何かを話しているようだ。
聞き取る前に話は終わってしまって、ハルマはにっこり笑って頷き、上段の棚から箱を一つ取り出した。
それを受け取っては今度は自分の部屋へと行ってしまった。
一体何を受け取ったのか。
の部屋に入ると、はもう箱を開けていて。

「ああ」

箱の中身を見て、アスランは納得した。
中に入っていたのは子供サイズのサンタ服が2着入っていた。

「なるほど。俺たちがサンタになるのか」

アスランの言葉にこくりとせラが頷く。

「おれたちは、さんたの、みならいだ」

なんと設定まであるらしい。
いそいそと着替えるに、アスランも自分のであろう服をとって着てみた。
サイズはぴったりで、手触りもいい。
ロゴがないからおそらく母親であるカリダの手作りかもしれない。
いつから考えていたのかを聞くと、去年のクリスマスに同じくサンタに会うために付き合わされ、結局サンタに会えず落胆するキラを見て、どうにかならないだろうかと考えたそうだ。
親の力を借りたものの、この小さな頭でこれだけのことを計画できたに感嘆する。
よほど兄を喜ばせたいんだろうことがひしひしと伝わる。

「よし。じゃあ頑張るか」

少し兄弟というものを羨ましく感じながら、アスランは大好きなこの兄弟の為に一肌脱ごうと決めた。























そしてその夜。


「サンタさーん・・・・うにゃ・・・」

だいぶ粘って起きていたキラがようやく寝たのを見て、アスランとは仕度を始めた。
半分夢の中に行きつつあるをヤマト夫妻が起こし、アスランはプレゼントの入った袋を担ぐ。
自分たちだとばれないように帽子を目深にかぶって、二人はもう一度子供部屋に入った。

そっと部屋に入って、今入ってきたように見せるために窓を開ける。
冷たい風が入ったおかげか、キラは身震いしてすぐに起きてきた。

「だれ?」

キャンドルの明かりと人影に気付いたキラは、目を擦りながら辺りを見回し、とアスランの方へと向く。

「どうしよう。みつかっちゃったよ?」

がアスランに掴まって言う。
勿論これもキラを信じさせる演技だ。

「うん。サンタさんに怒られちゃうかも・・・・」

アスランもこそこそと、キラに聞き取れるくらいの大きさで囁いて、困った顔をする。

「サンタさん?」

アスランの発言に、キラはすぐに食いついてきた。

「君たちサンタさんの知り合いなの?」
「・・・・・・・・・・ぼくたち、さんたのみならいなんだ」

困り顔で言う

「サンタさんのお手伝いをしているんだよ。子供たちにこっそりプレゼントを配るのが仕事なんだ。
 だから、みつかったらダメなんだけど・・・」
「ねえ、オネガイ。このことだれにもはなさないで?」

サンタのみならいは見られてしまうとサンタになれなくなってしまう。という
よく出来た設定だな、とアスランがしみじみ思っていると、キラのほうはその話を本気で信じてしまったようで。

「ホントなの??かわいそう。大丈夫。ぼく絶対に誰にも言わないからねっ」

と、心底心配していた。
どこまで騙されやすいんだろうか。この親友は。
アスランの心配をよそに、の演技はまだなおも続いていて。

「ありがとう」

と、キラに向かってにっこり笑った。

「っっ!」

その笑顔に、アスランは目を見張る。
いつも笑顔を見せず無表情でいることの多いだからこそ、その満面の笑顔は威力があった。
つい抱きしめてしまいたくなるような衝動になるほど可愛らしい。
ちらりとキラを見ると、同じくポカンとしているようだった。

その笑顔のままはプレセントを手にキラへと近付く。


「めりーくりすます」


言って、キラへとプレゼントを渡す。
そしてはアスランの腕を引っ張って窓から飛び降りた。


「あ!」


キラの静止の声がする。
二人落下した先は大きなクッションで、母二人がすぐにキラの見えない場所へ移動させ、ハルマ父がライトのついたラジコンを浮遊させる。
光になって移動するという、これはカリダ母が考えたネタだ。

「成功した・・・かな?」
「きらがおりてこなければ」

そう言ったの顔は、得意げに満ちていた。
















翌日、キラはが渡したプレゼントを持っておりてきた。
サンタに貰ったのかと聞く母親に、キラは何か言いたそうにしつつもただ無言で頷く。
約束を果たすために黙っているのだと思うと、くすくすとお腹の中からくすぐったさがこみ上げてくる。
間違いなく昨夜のことは成功している証拠だ。
にも早く教えてやりたいなと、昨日の夜更かしのせいでまだ寝ている功労者のことを考える。
よほど眠かったのか、あの後着替えもせずに眠ってしまった
キラに見つかると計画がすべて台無しになってしまうので着替えさせたが、その寝顔はとても満足そうだった。
誰かの為に、何かをするって言うのもいいのかもしれない。
褒められる為ではなくて、喜ばせるためだけに。
あんなに満ち足りた表情になれるのなら。

「アスラン?どうして笑ってるの?」

大事そうにプレゼントを抱えているキラ。
キラは幸せを両手いっぱいに持っているのだ。



「あのな。キラ」




今度は彼に、幸せをあげよう。



そう思って、アスランはキラに今思いついた計画をそっと耳打ちした。






















クリスマスネタ。
キラって絶対サンタを信じてた子だよな〜と思いまして。
そして悟ってるアスランと弟。

こんな弟がいたら、キュン死してしまいます。(笑)