初めて君がお祝いしてくれたのは、僕が6歳のとき。 金色と銀色の紙で包んだ厚紙のメダルに、大きくぐしゃぐしゃな花まるを描いたペンダント。 不恰好なソレを誇らしげに僕の首へ掛けた君。 傍から見たら、お世辞にも最高のプレゼントとはいえないソレが。 君の顔を見たら。 僕の中で何よりも大切な宝物へ代わっていったなんて、きっと君は知らない。 そのプレゼントは、今も大事に閉まってある。 <Specialty day> 「なつかしいな・・」 そしてそれを引っ張り出した僕は、思わず綻ぶ口元を戒めずに呟いた。 5月18日、今日は僕の誕生日だ。 母さんは張り切ってケーキを焼いている。 父さんは仕事に行ったけど、少し速めに帰ってくるって言っていた。 それからは・・・ 「おい兄貴。ちょっと良いか?」 タイミングよく僕の部屋にが来た。 僕は「何?」とメダルから目線を移した。 扉から半分だけ身体が覗いているは、なんとなく気まずそうに一瞬目線を斜め上に向けた後、こっちに来いと手招きしてきた。 なんだろう? メダルを机に置いて近付く。 部屋と廊下の境目で向かい合ったは、僕から一歩だけ距離を引く。 片手が背中に回っていて見えない。 ・・・・・・これは、もしかして・・・ 期待が胸の内に膨らむ。 彼からのプレゼントなら、たとえどんなささいなものでも嬉しい。 けど、どんなものをくれるんだろうって、わくわくしてしまう。 「どうしたの?」 にやけてしまいそうになる顔をできるだけ抑えながら、僕が言うと、は無言での部屋を指した。 部屋にあるのかな・・? 首を傾げて、結局何も持っていなかったについていく。 「これなんだけど・・・」 そう言って指したのはデスクトップに映るプログラミングだった。 ・・・・・・・あれ? 「学校の課題なんだけどさ・・・・煮詰まって・・・デバックしたいんだけどどれか解んなくてさ・・・」 あれれ? 「手続き型なの?スクリプトの方が楽でしょう」 「先生がこれにしろって言ったんだよ・・・」 「入力コードの設計ある?」 「ああ、これ」 あれれれ? 「まず・・ここ。単純に入力間違いだね。それとこれ・・・・」 「あーそっか・・・どうりで起動すらロクにいかなかったわけだ・・・」 あれれれれれれれれ? 「サンキュ兄貴。やっぱ俺プログラム嫌いだ・・・」 「ロボット設計は得意じゃない。理解していけば得意になるよ」 「手で作れないのが嫌なんだよ」 ・・・・・・これって、つまり・・・ 完全に予想が外れて、僕は内心で自分に落胆した。 よっぽどプレゼントが欲しかったらしい。 予想以上に自分は期待していたようで、大分ショックを受けている自分に驚く。 母さんや父さんなら嬉しいと思いつつも申し訳ないと感じるような、むずがゆいような気分になるのに。 どうしてになるとこうなんだろう・・・僕は。 もしがこの世にいなかったら、(そんなこと考えるのも嫌だけど)きっと自分の誕生日なんて頓着しないんだろうな。 そう考えながら、隣でウンウン唸りながらプログラム構築をしていくに、ずっとついていた。 それから後は、帰ってきた父さんを迎えて4人で夕食。 はりきって作った母さんのケーキはやけに大きすぎて、いくら男ばっかりでも全部食べるのは無理だって言ったら、「母さんの料理・・・美味しくないの?」なんて涙声で返されてしまって、男三人脂汗をかきながら食べて。 祝福の言葉を貰って。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・結局、から特別何か送られることは、とうとうなかった。 「まいった・・・・」 あああああ。もう。ほんと。きつい。 あの初めて何かを貰った誕生日から毎年、は何かをしてくれた。 それはプレゼントだったり、僕に特別にしてくれることだったり。 だから今年も、何かしてくれるって、思ってたんだけど・・・・ 「何もなかった・・・・」 まったく何もなかった。 それがこんなにダメージになるなんて思わなかった。 こんなに欲しがりだと思わなかった。 「キラー・・お前いい加減起きないと・・・って」 「ー・・・」 一晩中眠れなくて、机に突っ伏していた僕を見て、が溜息を吐く。 よっぽど酷い顔をしていることは自覚してるから、どうしようもないんだけど。 「お前・・・起きてるなら下に来いよ」 「、なんでプレゼントくれなかったの・・・?」 「はあ?」 「プレゼントじゃなくても、なんで特別祝ってくれなかったのぉ」 「あのな・・・」 半べそになっている僕に、は大仰に溜息をついた。呆れた顔で。 すっかりネガティブ思考になっていた僕には、その顔は傷を抉ってくる。 泣くまいと必死になるのがつらい。 「た・・・楽しみに、してたのに」 今年は何をしてくれるんだろうと。 何を与えてくれるんだろうと。 本当に楽しみにしてた。 メダルを貰ったあの日から、僕の誕生日は本当に特別になったから。 毎年、来ることが二番目に楽しみな日なのに。 「俺は、お前が望むようにしたぞ」 それなのに、は半眼で睨んでくる。 「嘘言わないでよ!だって昨日結局何もなかったじゃないかっ」 だから僕は反論して――― 「一ヶ月前、俺はお前に聞いた」 「え?」 に遮られた。 「何か欲しいものか、してほしいことはあるか」 「・・えと」 「お前は『一緒にいてほしい』と満面の笑みで言った」 「ええと・・」 「だから俺は昨日お前と一緒に家で過ごした」 「えええ?」 お前がどっかに出かけるなら、ついて行ったりもしただろうな。と言うの言葉が耳に入りつつ、僕は一ヶ月前を何とかして思い出そうとした。 ・・・・・そういえば、なんだかそんなこと聞かれて、が珍しいなって、思ったような。 「覚えは?」 「あります・・・」 思い出し始めたら確かにその日のことが浮かび上がってきて、僕は項垂れた。 でもまさか、この日のための質問だったなんて・・・ 「で、でもっおめでとうって言ってくれなかったし」 「母さんたちと言った」 「ううっ」 そりゃ、そうだけど・・・ 「・・・でも・・・特別にお祝いしてほしかった・・・」 僕の誕生日が、僕にだけの特別なんて嫌だった。 にとっても、特別であってほしかった。 誰でもなくて、にとっての特別であってほしかった。 ・・だから、お祝いしてもらえなくて、ショックだったんだ。 「来年でも、いいか?」 項垂れる僕に、がまた溜息を吐いた。 僕は目線だけをに向ける。 「もう終わったんだ。だから来年の誕生日まで待ってろ」 来年。365日。8760時間。525600分。 そんなに、待てないよ。 「スネんなよ」 が僕の頭を撫でてくる。 それでもやっぱり気分は浮上しない。 「来年な」 そう言うに、頷くしかできなくて。 「こんなことなら聞かずに自分で考えりゃよかったな」 「え?」 「結構つらいんだぜ?毎年どうしたらキラが喜ぶかって考えるのさ」 先に行ってるぞと片手を振って出て行くに、僕は瞬きをする。 それから慌ててを追いかけた。 「来年、楽しみにしてるからっ」 「はいはい」 ねえ。僕はうぬぼれていいの? も特別に思ってるって、思ってもいいのかな? 速く一年が経てばいいのにって、そうすれば今度は嬉しくてつらくなるのかなって考えると、僕はどうしようもなくそわそわしてしまった。 「の誕生日は盛大にお祝いするからねっ!」 「規格外はカンベンしてくれ・・・」 まずは一番大切で特別な日が、はやく来ますように。 |