その時僕は、とてもいいことを閃いた。 「!あのね。・・・あのね?」 「なんだよ、どうかしたのか?」 隣りにいるへ呼びかけると、雑誌を読んでいたが顔を上げた。 いつも見慣れているその顔を見るのが嬉しいのと、思いついたこととで、僕の気分はとても高揚している。 「明日、僕の誕生日じゃない。それで・・・ちょっとしてほしいことがあるんだけど」 「・・・・・・・セクハラネタ以外なら」 そう打ち明けた僕に、は嫌なことをされた後みたいに表情を渋くして釘をさしてきた。 もう。失礼だなあ! 「で?これでいいのか?」 「うん!」 僕の部屋のベッドで、僕はに抱きついて満足げに頷いた。 の手は僕へ回されていないけれど構わない。だってここにいてくれるだけで嬉しいもの。 僕がお願いしたのは、明日の朝をと一緒に起きたい。というのだ。 抱きついたのは、追加条件なんだけどね。 ほんとはもっと別のが良かったけど、絶対怒ると思うし。 これをお願いした時も微妙な顔してたな〜。ま、気にしてないけどね! 大好きなの胸にすりすりとすり寄って、片耳を胸にあてた。 とくん、とくん。と、の心臓の音が、耳に響く。 その音はとても心地よくて、嬉しくて、ドキドキした。 そしてそれ以上に安心する。 「人の心臓の音を聞くと、安心するんだって。最近眠れなかったから、ぐっすり眠れるかなって」 最近の僕は寂しくて堪らなくて、何度も目を覚ましては泣いて暮らしてた。 昼も夜も、寂しさは埋まらない。 おかしいね。だって、が傍にいてくれるのに・・・ 「あー・・それ、聞いたことあるな。・・・・でもそれって確か、母親の心臓音がとかって聞いたような・・・」 ぼんやりと呟くの言葉を無視して、僕はさらに腕の力を強くした。 耳から聞こえる音を、の鼓動と声だけにしてしまいたい。 は母さんじゃないよ。 それ以上に大切で、僕にとって救いの人。 だから誰よりも、が僕の安定剤。 「おやすみ。キラ」 だんだんと意識がかすんでいくなか、頭を優しく撫でられた。 本当にうれしくて、幸せで。満たされていた。 「―――――――――と、いう夢を見たそうですわ」 ラクスの話に、私はかわいそうなものを見る目で布団にくるまっているキラを覗いていた。 「・・・・で、現実じゃなくて腐ってると」 一人ベッドの上でみの虫かなにかのように丸まり、「ー〜、どーして僕の傍にいないのぉぉっ、どーして帰ってきてくれないのぉぉっ」と嘆いている弟バカにはいつ見てもあきれてしまう。 ・・・帰ってこなくて正解だったぞ。会ったら何されるかわからないからな。 遠い空にいる従弟に念を送ってみる。 もし帰ってきたとき、いったいどういうことになるのかがとても恐ろしい気がするが、そこはもう考えないようにしよう。 そしてしばらくは寄り付かないようにしよう。 とばっちりはごめんだ。 「あー・・・じゃあ、キラが正気に戻ったらこれ渡してやってくれ」 虚ろになる目を治せないまま従弟の未来に同情し、キラから目を離した私は、持っていた人形と小さな箱をラクスへ手渡した。 その人形はキラとの母親のカリダさんが作った、抱き枕型の人形だ。 とても可愛らしく、そしての特徴をとらえた人形だ。おそらくキラの暴走がひどくなっているのを見越して作ったんだろう。 「あの子のブラコンも困ったものね」と微笑ましく笑って言ったカリダさんはすごい。さすがキラを育てた人だ。 涙を濡らす日々は終わらないだろうが、少しは落ち着いてくれるだろう。 そしてもう一つは、実家に届けられたからのプレゼントだった。 こんなに遠く離れていても送ってくるなんて、案外あいつマメだったんだな。 それともなかった時の被害がどう自分に及ぶのかわかっているからこそなんだろうか。 いずれにしても、キラの家族は本当によくキラのことを分かっていると思った。 「あら、可愛らしいお人形さん。こっちは、ご本人からですわね」 「本物じゃなくてごめんって言っといてくれ」 「わかりましたわ」 ラクスの返事に、私は踵を返す。 本当は話くらいしようと思ったけど、今日それをすると一日中慰めるだけになるだろうから無理だと悟った。 さすがに仕事がある身ではそんなことはできない。 本当にいつまでも困った奴だ。 「それにしてもラクス。お前も趣味悪いな・・・あれのどこがいいんだ?」 「へタレよりは百倍素敵ですわ」 「はははは」 「ふふふふ」 自分で落としてしまった地雷を返されて、私とラクスは互いに乾いた笑いを上げる。 お互いの同情とけなしあいの笑いは、しばらくそこで続いた。 追記。 おい!アスラン! は私の誕生日を覚えていたぞ!? 何上げればいいか分からないからって、ミニヒマワリとカーネーションの花束を贈ってくれた。 私の趣味に合ってて可愛かったぞ! あいつほんと天然でタラシだな。 ところでお前は何か贈り物を用意したのか? <夢の中の君が笑う> |