L4に行くことが決まり、『フリーダム』と『ジャスティス』をどこにやるかと、アスランと相談しようとしていた時だった。 その場にははいなかった。 シモンズ博士につかまってあくせく働いていたから、後で合流しようということになっていた。 それが、よかったんだろうか。 悪かったんだろうか。 渡された写真。 言われた言葉。 「え・・・・・?」 問われた言葉に、戸惑う。 現実味が無いのに、同時に自分の足元が傾いた。 素直に受け入れてしまうには大きすぎるそれは、黒い煙を噴き上げる。 ぶすぶすと 不完全燃焼する炎のように。 <欲心よりも冀うもの> 与えられた部屋で、僕は転寝を繰り返していた。 眠ったほうがいいのに、カガリに問われた言葉が繰り返し頭の中で反芻されて、どうしても眠れない。 『お前は・・・一人ではない。―――――――兄弟もいるって』 さっきまでの一連の事が、頭から離れない。 『ふたご?』 アスランの、戸惑う声も。 『お前と兄弟って・・・じゃぁ、私は・・・・・・・・』 カガリの泣きそうな声も。 信じられないと否定したいその気持ちも。 同じように、重く僕の中に引っかかっている。 あの時のカガリを慰めた言葉に嘘はない。 カガリのお父さんは間違いなくウズミ様だと思うから。 その彼女を、これからは家族として思おう。ウズミさんの代わりに守っていこうって思った。 それは本当だ。 真実思ったことだった。 でも、もしも、本当だとしたら。 「キラ? どうした」 いつの間に帰ってきていたのか、が寝転がる僕を見下ろしていた。 大切な僕の弟。 兄弟以上に愛おしい人。 何よりも傍にいてほしい人。 もしも、僕がカガリと兄弟なのだとしたら。 ―――――――――――僕とは、どういう関係なの? いつの間にか起き上がって、を引き寄せていた。 「ちょ、」 抗議するの声を自分の口でふさいで、の身体も組み敷いてベッドに縫いとめる。 「おぃっ・・っ・・・・んっ・・・」 が暴れる度に身体が浮いて、空中でもつれあったまま僕はをかき抱いて口付けていた。 逸る気持ちと、ずっとずっと持っていた手に入れたいと求める気持ち。 戒め続けて、それでもずっと消せなかった思い。 もしも、僕たちの血が繋がっていないのだとしたら、僕は家族愛とは違うこの感情で、目で、この子を見ていても許されるんだろうか。 もしも、血が繋がっていないのなら、僕はこの子と離れ離れにされてしまうんだろうか。 「どうしたんだよ」 「、好きだよ」 「・・・会話になってないぞ」 呆れたの顔に、自然と笑みが浮かぶ。 頬にリップキスをすれば、少しうっとうしそうに身じろがれた。 それでもは僕から遠ざからない。それは、僕を受け入れてくれているからだと思うと、歯止めが利かなくなってしまう。 今の僕の気分では、とても我慢が出来ない。 「」 いつもなら、きっとは白い目をむいて否定するだろうけど、が本当に嫌なことはしない。 でも、迷う気持ちがあると、相手のことを考えずに甘えてしまうのだ。 どうしようもないくらいの恋心。 塗り替えられることのない愛情。 「もし僕が」 食いつくしても足りないほどの欲情。 それを戒める力が今は弱い。 「君の」 本当の兄でなかったら。 僕は、欲望のままに君を抱いてもいいのだろうか。 「俺の・・何?」 の返しに、僕は我に返った。 「・・・・・ううん」 言いかけた言葉を切って、首を振ってごまかす。 が怪訝な顔をしているけど、もう言わない。言えなかった。 この場で言って、関係が崩れてしまう事が怖かった。 僕とこの子と今まで過ごしてきたものを、自分から否定することをしたくなかった。 「、もう気持ちは落ち着いた?」 「何のことだ?」 「ウズミ様のこと・・・が堪えていたように感じたから」 話題転換にそう指摘すると、は沈黙してしまった。 「?」 「なんで、今それを言うんだよ」 溜息を吐き、俯いて僕の肩口に顔をうずめる。 いつも強いが甘える事は本当に稀だ。 辛くても辛いと言わないで、自分で何とかする子だから。 「」 そんなが僕に寄りかかる時は、僕が気付いた時だけだ。 辛くてたまらないはずなのに、誰にも言わずに抱え込むの心を、たぶん僕だけが気付くことができる。 「・・・・・・・しばらく。このままでいてくれ」 労わる様に抱きしめてあげると、が小さく呟いた。 それに応えるように少しだけ強く抱きしめる。 身じろぐようにも動いて、僕に身体を預けてくれている。 「抱きしめてるだけでいいの?」 「他に何する気だ。変態が」 口ではそう言いつつもは僕から離れない。 そのの顎をすくって上向かせ、ゆっくりと唇を近づけた。 は逆らわずに目を閉じて受け入れてくれる。少し前まではこんなことしようものならゲンコツが降ってきたのだけれど、の心境が変化したのか、自力で戻ってきたあとからはすんなりと受け入れてくれるようになった。 人前にいるときは絶対に嫌がるけど、それでも、その行為はが僕を受け入れ、僕と同じ気持ちを持ってくれているんじゃないかってうぬぼれてしまう。 うぬぼれて、浮かれるまま、ほんの少し理性を砕いて僕はの舌に吸いつき、なぞった。 ひく、との口の中がすくみ、体もこわばるけれど、少しだけ応えるようにも動いてくれる。 触れ合わせれば触れ合わせるほど心地いいとのキスは、離すのが嫌になってこのままいつまでもしていたいとさえ思う。 僕だけじゃなく、もそう思ってくれているといい。 一緒に気持ち良くなりたい。 「の舌・・・やっぱり気持ちいい」 「だから、そういうセクハラを・・・」 「一番気持ちいいんだ」 今まで、フレイや、寄ってきた女の子とたちとしてきたけれど、こんなに心地いいキスは以外では感じたことはない。 そう思ったから素直にそう言って、もう一度しようと引きよせた。 「・・・・・・・・へぇ」 でも、の冷たい視線で動きを止めさせられた。 は今まで僕の背中に回していた手を解き、ほんの少し僕から遠ざかる。その顔には冷たい笑顔が張り付いた。 にっこりと笑っているのに、の目はとても冷たい。 「一番?」 「えと・・・」 一瞬、なんでが怒っているのか分からなくて、僕は戸惑った。 「お前の経験談なんて興味ねーからいいけどな」 その戸惑いがさらに癪に障ったのか、は完全に僕を突き放し、遠ざかる。 しまった。と気付いても遅く、の機嫌は下降してしまった。 でも、戸惑いよりも、嬉しさの方が強い。 「、嫉妬してくれてるの?」 「は!??」 僕の呟きにが過剰反応した。 明らかに怒っている。いつもなら謝って機嫌をとるところだけど、今の僕はかなり浮かれて、喜んでいた。 が僕に嫉妬してくれているなんて、奇跡だ。 「好きだよ」 だってそれは、君が僕のことを好きだということでしょう? の中に、兄弟とは違う感情があるってことでしょう? 僕は、うぬぼれてもいいってことでしょう? よこしまな感情だってわかっているけれど、それでも僕は喜ばずにはいられなかった。 許されないこと?それがどうしたの? 人が人を好きになることに、性別も、血縁も関係ない。 心が求めているものを、僕は否定できない。 「お・・・・まえな・・・・・っ・・」 の肩がわなわなとふるえ出した。 怒声を放たれると思っていた僕は、けれど何も言わずに自分のパーソナルスペースに入っていくに首をかしげた。 そして、の耳が真っ赤になっているのを見つけてしまった。 「、どうして顔が赤いの?」 「知るか!! 寝るんだから邪魔すんな!」 「僕も一緒に寝ていい?」 「自分のところで寝ろクソ兄貴!」 本当は、にしたいことがたくさんある。 それをすべて自分の中でとどめて、と言葉の応酬を繰り返す。 に無理強いをさせることはしたくないから。 ずっと我慢していたのだから、まだ待つことはできる。 心は満たされている。 僕のすべてはここにいる。 何があっても、今の僕は迷うことをしないだろう。 この子が幸せに暮らせる世界を作る為に、僕は戦うことができる。 血がつながっていなくてもいい。 想いが届かなくてもいい。 だからどうか、この子を僕から奪わないでください。 |