他にも生徒会のメンバーにライのことを尋ねてはみた。
だが、ルルーシュが知っていること以上の情報は得られなかった。

(ライの自分のことを表に出さない性質が裏目に出たな・・・)

自分の前でだけ現れるものがあることは恋人冥利に尽きるが、今は問題の種だ。
こうなったら、視点を変えるしかない。
ライがほしい物ではなく、自分がライに与えたいものだ。


しかし、またそれも難しいものであるには違いなかった。
ライへ送りたいものは、物としての形を成してはいない。
簡単に言えば『想い』だ。その想いの象徴を体現する品物が、果たしてあるのか。
こうしている間にも時間は刻々と迫っている。
それに、また明日からは多忙な日々だ。今日しかない。
そこでルルーシュは、検索で動かしていた手を止めた。

(これは・・・)

 

 

<君へ贈る大切なもの 3>

 

 


「誕生日おめでとう!ライ」

「え?」

その場にいる全員からの突然の祝福の言葉に、ライは一瞬呆然となった。

今日、非番となったライはいつものように朝起きて、リビングへ入った。
そこでテーブルに置かれたミレイからの手紙を発見し、「これから指示する所に今すぐ来ること!」と書かれていたそれ通りに指定されたここへやってきた。
アッシュフォード学園のはずれにある、薄紅色の花が咲く木の下へ。

誰もいなかったそこで、突然背後から呼びかけられたそれに、ただライは驚いた。
ライを見つめるみんなが、ミレイも、シャーリーも、リヴァル、ニーナ、カレン、スザク、ユフィ、ナナリー、ルルーシュ、咲世子が笑顔でいる。

「え・・と」

何が何なのか飲み込めないライは、ただ戸惑うばかりだった。

「会長、やっぱり説明しないとわからないですよ」
「うーん。まあしょうがないわよね〜」

シャーリーとミレイが小声で喋り、ミレイがライへ向かって一歩出た。

「今日はね、ライ。貴方がここに来てから一年たったお祝いのパーティなのよ」
「え・・」

その言葉に、ライは目を瞬いた。
記憶喪失になってから、このアッシュフォードへ身を寄せて一年。

・・・そうか、もう一年たっていたのか。

「事情はわかりましたけど、どうして僕の誕生日なんですか?」

納得がいってだいぶ状況は把握できたが、その理由がわからない。

「だってね〜、ライ記憶喪失で自分の誕生日なんてわからなかったでしょう?だから、こっちで勝手に貴方とあえた日を誕生日にしてみたの。
 驚かせたくって」
「確かに、驚きましたよ」

ミレイの説明に、ライは苦笑する。
それと同時に、ただ胸のそこからむくむくと膨らんでいく幸福の色に、自分が包まれていくのを感じた。
その幸福が身に余りすぎて、少し恥ずかしく、とても嬉しい。

「じゃあ改めてもう一度」

 

「誕生日おめでとう。ライ」

 

「ありがとう、みんな」

みんなの祝福に、ライは今度こそ笑顔で答えた。

 

 


ライの誕生日は、そのサプライズだけで終わらなかった。
薄紅の花が咲き誇るその木の下で、俄か会場が作られ、たくさんの食べ物や飲み物であふれかえった。
その中で一番目を引いたのは、腕を回しても抱えきれないほどの巨大なバースデーケーキだ。
17本置かれた蝋燭の日を吹き消して、皆から拍手を受ける。その意味が分からなくても、ライはその好意を笑顔で受け止められた。

「ライさん。おめでとうございます」
「ありがとう。ナナリー」

傍にいるナナリーからの祝福に、ライも目を細める。

「私、ライさんへのプレゼントがあったんです」
「プレゼント?」

「はい」と頷いて、ナナリーは上を見上げた。薄紅色の小さな木の花びらがひらひらとライとナナリーへ舞い落ちてくる。

「ひょっとして、この木がナナリーのプレゼント?」
「はい。桜の木です」
「サクラ?」

言われて、もう一度木を、花を見る。枝の重みでしなり、今にも届きそうな位置にあるその花をまじまじと観察した。
あの折り紙と同じ、五つの花びらで作られた小さな花。

そうか、これが桜・・・

桜の折り紙が折れても、実際に見たことは一度もなかった。
祖国への望郷と、我が子にも知ってほしいのだと母が教えてくれた日本の花。

「桜は、母さんが大好きだと言っていた花なんだ。こんなに綺麗な花なんだね」

始めてみた母の愛した花。儚く見えるようでとても優しくまっすぐにあるその花が、目の前にいる少女と似ていると思う。

「ありがとう。ナナリー」

目の見えない彼女へ、たとえ表情が見えなくても伝わるように、ライは心からお礼を言った。

「ライさん。私、桜を見たことがないんです。だから、どんなものなのか教えていただけますか?」
「もちろん。ナナリーともこの景色を共有したいからね」

二人は互いにくすぐったそうに肩を竦めて笑いあった。







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